“母の味”は、人の手と想いで受け継がれていく 株式会社山長
2026.06.04
「これ、1日かけて取材しても300文字くらいにまとまるんですよ」
そんな何気ない一言から始まった今回の取材。
実際にお話を伺ってみると、その“300文字の裏側”には、とても収まりきらないほどの時間と想いが詰まっていました。

今回お伺いしたのは、大葉とじゃこを使ったおかず味噌を手がける株式会社山長さん。
商品のルーツは、とてもシンプルで、どこか懐かしいものでした。無農薬の大葉を近所の方からたくさんいただいたことをきっかけに生まれた家庭の味。それは忙しいお母さんが、子どもたちのために用意した“ご飯のおとも”でした。
「ご飯さえあれば、これでなんとかなる」
そんな言葉に象徴されるように、この味噌には日々の暮らしが詰まっています。決して特別な料理ではないけれど、食卓を支える確かな存在。
だからこそ、時代や環境が変わっても、人の心に残り続けるのかもしれません。

印象的だったのは、「母の味を再現するのに2〜3年かかる」というお話です。
同じレシピ、同じ材料でも、作り手が変われば味は少しずつ変わってしまう。その“ほんの少しの違い”を埋めるために、長い時間をかけて試行錯誤を重ねてきたそうです。
家庭の味は、レシピだけでは引き継げない。
手の感覚や火加減、タイミング。そうした目に見えない積み重ねがあってこそ受け継がれていくものなのだと感じました。

また、この商品が多くの人に届くようになった背景には、人との出会いがありました。
飲食店で提供されたこと。味に惚れ込んだ方の一言。そして商品化を後押ししてくれた存在。
どれか一つでも欠けていたら、今の形にはなっていなかったかもしれません。
さらに印象に残ったのは、「食卓の先のストーリーを想像している」という言葉でした。
贈り物として届いたときの開封の瞬間。家族で囲む食卓。電話越しに伝わる「美味しかった」の声。
作り手が見つめているのは、商品そのものではなく、その先にある人の時間なのだと感じました。
取材中は終始和やかな空気で、途中にはお茶をいただいたり、商品を並べて撮影したりと、どこか“おじゃましている”ような感覚さえありました。

その自然体な雰囲気は、商品づくりにも通じているように思います。
そしてもう一つ心に残ったのは、「またカフェをやりたい」という言葉でした。
かつて運営されていたキッズカフェでは、お母さんたちがゆっくり過ごせる場所を提供していたそうです。子どもを遊ばせながら安心して過ごせる空間。そこには、単なる飲食店ではない、人が集う場所としての役割がありました。
味噌という商品を通じて誰かの日常に寄り添うこと。
そして、人が集まる場所をつくること。
形は違っても、その根底には「人のために」という変わらない想いが流れているように感じます。
今回の取材を通して感じたのは、ものづくりとは単なる製造ではなく、“想いをつなぐ行為”だということでした。
母から娘へ。
地域から商品へ。
そして商品から、お客様へ。
いくつもの手を渡りながら受け継がれてきた味は、今日も誰かの食卓へ届けられています。
この味噌を手に取ったとき、その先にあるのは“美味しさ”だけではないのかもしれません。
誰かの暮らしや記憶、人と人とのつながり。
そんな時間までもが、この一瓶の中に静かに息づいているように感じました。