編集後記|“当たり前に食べているご飯”の価値を、もう一度知る
2026.07.12
朝からほんのり汗ばむぐらいの良く晴れた南国土佐の3月中旬。ロケ地に到着して車から降りた瞬間、出た言葉は全員「寒い・・・」でした。
今回お伺いしたのは、本山町農業公社。高知市内中心部から車で約45分程度。高知県の中でも山間部に位置し、豊かな自然と寒暖差を活かした米づくりが行われている地域です。
正直なところ、「高知=米どころ」というイメージを持っている方は、まだ多くはないかもしれません。
しかし、その固定観念はここ本山町の話を聞くことで大きく覆されることになります。取材中、話が進むにつれて見えてきたのは日々当たり前のように口にしている
“お米”の裏側にある、静かで力強い営みでした。

印象的だったのは、「新潟とほぼ同じ気温」という言葉でした。南国のイメージが強い高知県ですが、本山町は標高が高く、昼夜の寒暖差がしっかりある地域。
この環境こそが、お米の甘みや旨みを引き出す大きな要素になっているそうです。
そしてもう一つの特徴が「棚田」。効率だけを考えれば決して有利とは言えないこの地形を、守り続けている理由。
それは単なる農業ではなく、“地域の文化”そのものだからだと感じました。弥生時代から続くと言われるこの土地の営みを、今もなお引き継いでいるという事実には、驚きと同時に強い敬意を覚えます。

しかし、その一方で現実は決して楽ではありません。特に近年は、地球温暖化の影響が顕著に現れているとのこと。
標高の高い地域であっても気温の上昇は避けられず、品種によっては栽培できるエリアが限られてきています。さらに、生産者の高齢化という課題も重なり、農業を取り巻く環境は厳しさを増しています。
それでも、「日本一のお米を作る」という言葉には一切の迷いがありませんでした。
その言葉の裏には、収穫後の選別や品質管理においても一切妥協しない姿勢があります。どれだけ手間をかけて育てられたお米であっても、基準に満たなければ出荷しない。
その“厳しさ”は、決して冷たさではなく、ブランドを守るための責任そのものだと感じました。
取材の中で、「一口目はそのまま食べてほしい」という言葉がありました。
卵かけご飯として食べる前に、まずは白ご飯だけで味わってほしい——。
それは、お米そのものの美味しさに対する自信の表れであり、同時に「お米ってこんなに美味しかったんだ」と気づいてほしいという願いでもあります。
普段、私たちはつい“おかずありき”でご飯を食べてしまいがちです。
しかし、本当に美味しいお米は、それだけで成立する。むしろ、おかずがいらないほどの満足感があるという話には、思わず深く頷いてしまいました。

また印象的だったのは、「このお米をきっかけに、お米そのものの魅力に気づいてほしい」という言葉です。
単に自社の商品を売るのではなく、日本人の食文化の中心である“米”そのものの価値を伝えていきたいという想い。その視点はとても広く、そして本質的でした。
今回の取材を通して強く感じたのは、“当たり前の裏側”にある努力と誇りです。毎日食べているご飯も、誰かが環境と向き合い、手間をかけ、守り続けてきた結果として存在しています。
そしてもう一つ、この取り組みは単なる農業ではなく、「地域を未来につなぐ活動」でもあるということ。
本山町の魅力を伝え、人を呼び、ここに住んでもらう。その入り口としてのお米づくりは、想像以上に大きな意味を持っていました。